家を探すとき、普通ならリビングやキッチン、寝室に目が行きがちだ。けれど僕がこの家を選んだ理由は、他のどれでもなく、リビングから続く一つの廊下だった。
その廊下は、特別広いわけでも、何か豪華な装飾があるわけでもない。けれど、初めてこの家を訪れたとき、リビングのドアを開けた瞬間に目に飛び込んできたその光景に、心が掴まれた。右側の窓から差し込む柔らかな光が廊下全体を包み込み、左へ、奥へと静かに流れていく。その光の筋は、どこか神秘的で、まるで自分を導いてくれるような、不思議な感覚を覚えた。
廊下の先には、小さな部屋が一つ。以前の住人がクローゼットとして使っていたというそのスペースが、今では僕の作業部屋になっている。広さは1.5畳ほど。机と椅子、撮影機材やパソコンに囲まれていて、確かに「狭い」と言えば狭い。でもその狭さが、逆に僕にとっては心地よい。自分の好きなものだけに囲まれて、必要以上のものがない空間。それはまるで、子どもの頃に憧れた秘密基地のようだ。
廊下を歩き、この部屋の前に立つとき、僕はいつも少しだけ胸が高鳴る。ここには、自分だけの空間が待っている。外の世界から少し切り離されたような静けさがあり、そこに身を置くたびに心が落ち着いていく。そんな感覚を味わえるこの部屋のことを、僕はひそかに「心の拠り所」と呼んでいる。
それでも、この家で一番好きなのはやっぱり廊下だ。光が差し込み、やさしく床を照らしながら先へと進んでいくあの風景。最初にこの景色を見たとき、僕の中には明確な言葉にならない感情が溢れていた。懐かしさとワクワク感、それに少しの安堵が入り混じったような、不思議な気持ちだった。その感覚は今も変わらない。この家に住んで日々を過ごす中で、この廊下を歩くたびに、最初に感じたあの気持ちがふとよみがえる。
廊下から部屋までの短い距離。でもその一歩一歩が、僕にとって特別だ。この道筋を通るたびに、僕はほんの少しだけ自分の世界へと足を踏み入れる。そんな空間を持てたことが、この家を選んで本当に良かったと思える理由なのだ。
撮影機材
- カメラ: Canon EOS R5
- レンズ: TS-E17mm F4L
- 編集ソフト: DaVinci Resolve
- 使用PowerGrade: Monet
この写真は、CanonのTS-E17mm F4Lというティルトシフトレンズを使って撮影しました。このレンズは特に建築やインテリア撮影で効果を発揮し、広い画角を保ちながらもパースの歪みを抑えることができます。廊下のラインがまっすぐ見えるのも、このレンズのおかげです。普段のレンズでは難しい視点が、この一本で簡単に実現できるのが魅力ですね。