僕は、ちょっと変わった子に惹かれる。まっすぐなのに少しだけズレている、会話のテンポや視線の置き方に独特の間合いがある。映画でも、そういうヒロインに弱い。
善悪ではなく体温。完璧さではなく、揺れや癖。彼女たちが画面に現れると、物語の光の向きが変わる。声の高さ、言葉の選び方、沈黙の「間」。そのささいな差分に、僕は心を掴まれる。
ここに並べるのは、そんな“すこしズレていて、まっすぐ”なヒロインが胸に残る5本。恋の甘さだけでなく、自分を映す鏡としての恋まで含めて、今日の気分で選べるラインナップだ。
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(500)日のサマー(2009)
最初の高揚と、あとに残る現実。肌に触れる夏の熱気が、時系列の行き来で少しずつ冷めていく。語りは前後し、甘かった日々と痛い現在が交互にやってくる。期待と現実を左右に並べる名シーンは有名で、視線の温度差が胸に刺さる。
“想いが通じること”と“長く続くこと”は別だ。相手を理想化しないこと。自分の物語を自分で閉じること。観終わると、通り抜ける風の音が静かにそれを伝えてくる。
ヒロインサマー・フィンはズーイー・デシャネル。涼しい声と、感情の揺れを表に出さない眼差しが体温を残す。監督はマーク・ウェブ。製作費約$7.5Mで世界興収約$60.7Mのスリーパー・ヒット。ゴールデングローブ2部門ノミネート(作品〈ミュージカル/コメディ〉、主演男優)、インディペンデント・スピリット賞 脚本賞、サテライト賞 脚本賞受賞
監督:マーク・ウェブ。MV出身の切り取りが冴え、レジーナ・スペクターやザ・スミスの曲が印象を深める。
マジェスティック(2001/ジム・キャリー)
朝の斜光が小さな町の映画館に差し込み、舞う埃が金色に見える。記憶を失った脚本家が、人と映画に触れながら自分を取り戻していく再生の物語。恋は主題の一部だけれど、椅子の軋みやポップコーンの甘い匂いまで描く、“映画が人をつなぐ力”が温かい。
笑いを抑えたジム・キャリーの誠実な表情が沁みる。クラシカルな手触りの、まっすぐな優しさに浸りたい日に。
ヒロインアデル・スタントンはローリー・ホールデン。監督はフランク・ダラボン、脚本マイケル・スローン。1950年代のハリウッド・ブラックリストを背景に、映画館「ザ・マジェスティック」の再生と住民の連帯を描く。音楽はマーク・アイシャム。
監督:フランク・ダラボン。往年のハリウッドへの敬意が隅々に漂う。
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イエスマン “YES”は人生のパスワード(2008)
夜の街のネオンが背中を軽く押す。何にでも“YES”と言う極端なルールで、凝り固まった日常がほぐれていく自己更新コメディ。恋の要素はあるけれど、軸は“自分の殻を割ること”。
テンポの良い会話が耳にさらりと残り、観終わると玄関の靴紐をさっと結び直したくなる。深刻さより勢いで前を向きたい時に効く一本。
ヒロインアリソンはズーイー・デシャネル。彼女が率いる劇中バンドMunchausen by Proxyの楽曲が物語の軽やかさを支える。監督ペイトン・リード。世界興収約$223Mのヒットで、MTVムービー・アワードではジム・キャリーが最優秀コメディ演技賞を受賞。
監督:ペイトン・リード。原作はダニー・ウォレスの実体験エッセイ。
バニラ・スカイ(2001)
ガラス越しの朝日が冷たく眩しい。成功者の主人公が、恋と事故をきっかけに現実と夢の境目を見失っていく。ロマンティックな出会いのまばゆさと、自己認識が崩れる恐怖が同居する不思議な余韻。
これは“恋そのもの”というより、“恋を鏡にした自分探し”。音楽の使い方が心拍を導き、最後の呼吸の長さで余韻が決まる。
ヒロインソフィアはペネロペ・クルス(『オープン・ユア・アイズ』に続き同役系で再登場)。もう一人の鍵となる女性ジュリーをキャメロン・ディアスが演じ、ゴールデングローブ助演女優賞にノミネート。主題歌**“Vanilla Sky”(ポール・マッカートニー)はアカデミー歌曲賞ノミネート**。監督はキャメロン・クロウ。
監督:キャメロン・クロウ。『オープン・ユア・アイズ』の英語版リメイク。
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エターナル・サンシャイン(2004)
記憶の雪が、足元で静かに解ける。別れの痛みを消すため“記憶消去”に踏み出した二人が、忘却の旅の途中で“消したくない気持ち”に触れてしまう物語。ほとんどが彼の記憶世界で進み、楽しかった日ほど深く隠れている構成が切ない。
派手なCGより現場の工夫で“夢の手ざわり”を作る映像がやさしい。結局のところ、恋は痛みごと抱え直す選択なのかもしれない…という成熟した問いが残る。
ヒロインクレメンタインはケイト・ウィンスレット。彼女の大胆な色彩と衝動が、ジョエル(ジム・キャリー)の内面を照らす。脚本はチャーリー・カウフマン、監督ミシェル・ゴンドリー。アカデミー脚本賞受賞、ウィンスレットが主演女優賞ノミネート、AFI Top10 of 2004 選出。
監督:ミシェル・ゴンドリー/脚本:チャーリー・カウフマン/音楽:ジョン・ブライオン。
気分別 “今日の1本”
- ビターで現実的に背中を押されたい → 『(500)日のサマー』
- しっとり温かい人間ドラマを → 『マジェスティック』
- 軽く元気をチャージしたい → 『イエスマン』
- 夢と現実の狭間で揺れたい → 『バニラ・スカイ』
- 切なさとやさしさをゆっくり味わいたい → 『エターナル・サンシャイン』
まとめ
総じて、僕はヒロインが魅力的な映画が好きだ。声の高さ、視線の揺れ、手の置き場。そこに物語の熱が宿る。5本とも、観終わった部屋の静けさが心地よい。カーテンの隙間の光が薄く伸び、机に居場所ができる。
今日はどれか一つでいい。その一歩で、明日の気分は静かに変わる。